雨も降っているし。
台風の時は家に籠って。
なので、
久々に吉本ばななさんの『キッチン』を読みました。
これがどうもデビュー作みたいですね。
吉本ばななといえばつぐみかキッチンか、みたいな。
全く読んだことなかった時から、この二つのタイトルだけはよく知っていました。
この本も、
富良野に長期逗留中、図書館で読みました。
不安定で宙ぶらりんな旅暮らしに、吉本ばななさんの描く喪失感からの復活物語は、丁度よく染みました。
台所が好きになる本だったなーということしか覚えていませんでしたが、
改めて読むと、
登場人物の奇抜さとか、目の付け所?が、改めて鮮烈で、
そりゃ当時、センセーショナルで話題になる訳だよな、と納得の文章力でした。
同じ日本語なのに、書く人によってこんなにも文章が変わる。。。
改めて、
その不思議と、
感性の織りなす澄んだピアノのような文章が心地良かったです。
「ハゴロモ」も似たような構成の内容でしたが、
私はこっちのほうが好きかな。。音楽もそうですが、一番最初に出たものが一番新鮮というか。何にも侵されてない、濁りのない物語、って感じで良い。
この本には「キッチン」の続編にあたる物語も掲載されているのですが、、
私にとっては
別に無くても良かったかな、ってカンジでした。
「キッチン」だけで十分完成されているし、
せっかくなら
「キッチン」その後の、みかげの成長と、雄一くんとの絡みが読みたかったです。
小説とか映画とかは大概 人が死んでからドラマが始まるのですが、
死という、誰もがショックを受ける強烈なものを持ってこなくても語れるドラマが見たいかな。。
単に、今の自分の好みがそうなのかも知れません。
よって、今の私に「キッチン2」は、ちょっとキツいお話でした。
ただ、本って、自分が読む時によって全く違う見方をしながら読むから、
これは今の私の単なる感想であって、
読んだ人の分だけ、いろんな感想を抱くものだと思います。
ケータイ電話なんか無かった時代の話だからさ、
家電にかかってきた彼女からの電話に間違えて出ちゃって、誤解を生んでトラブって、みたいなエピソードは今じゃ書けないですね。
ケータイが当たり前にある時代に生まれた子は、このトラブルさ加減、分かるのだろうか。。(о´∀`о)
私が古典を読むような気持ちで読むのかなぁ。。。気になる。。
物語自体は短編小説のように短いので、サクッと読めると思います。
吉本ばななさんの唯一無二の感性が光る、このひとにしか書けない文章を楽しめました。
最後に、
いくつか素敵だな〜と思った部分を転載しておこうと思います。
私が、これぞ吉本ばなな!って思った、感性が光る文章です。
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ーーーよくよく見れば確かに年相応のシワとか、少し悪い歯並びとか、ちゃんと人間らしい部分を感じた。それでも彼女は圧倒的だった。もう一回会いたいと思わせた。心の中にあたたかい光が残像みたいにそっと輝いて、これが魅力っていうものなんだわ、と私は感じていた。
はじめて水っていうものがわかったヘレンみたいに、言葉が生きた姿で目の前に新鮮にはじけた。大げさなんじゃなくて、それほど驚いた出会いだったのだ。
彼であるところの彼女は、にこにこしていた。よくTVで見るNYのゲイたちの、あの気弱な笑顔に似てはいた。しかし、そう言ってしまうには彼女は強すぎた。あまりにも深い魅力が輝いて、彼女をここまで運んでしまった。それは死んだ妻にも息子にも本人にさえ止めることができなかった、そんな気がする。彼女には、そういうことが持つ、しんとした淋しさがしみこんでいた。
ことによると、いつか好きになってしまうかもしれない。と私は思った。
曇った空からかいま見える星のように、今みたいな会話のたびに、少しずつ好きになるかもしれない。
本当にひとり立ちしたい人は、何かを育てるといいのよね。子供とかさ。鉢植えとかね。そうすると、自分の限界がわかるのよ。そこからが始まりなのよ。
人生はいっぺん絶望しないと、そこで本当に捨てらんないのは自分のどこなのかをわかんないと、本当に楽しいことが何かわかんないうちに大っきくなっちゃうと思うの。
と
彼女は言った。
肩にかかる髪がさらさらゆれた。
いやなことはくさるほどあり、道は目をそむけたいくらいけわしい……と思う日の何と多いことでしょう。愛すら、全てを救ってはくれない。それでも黄昏の西陽に包まれて、この人は細い手で草木に水をやっている。透明な水の流れに、虹の輪ができそうな輝く甘い光りの中で。
いつか別々のところでここをなつかしく思うのだろうか。
それともいつかまた同じ台所に立つこともあるのだろうか。
でも今、この実力派のお母さんと、あのやさしい目をした男の子と、私は同じところにいる。
それがすべてだ。
もっともっと大きくなり、いろんなことがあって、何度も底まで沈みこむ。何度も苦しみ何度でもカムバックする。負けはしない。力は抜かない。
夢のキッチン。
私はいくつもいくつもそれをもつだろう。心の中で、あるいは実際に。あるいは旅先で。
ひとりで、大ぜいで、ふたりきりで、私の生きるすべての場所で、きっとたくさんもつだろう。
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(満月ーーキッチン2 より)
その記憶の光る印象がわずかでも彼を救うといいと願う。
言葉はいつでもあからさますぎて、そういうかすかな光の大切さをすべて消してしまう。
外に出ると、澄んだ藍の夜がはじまっていた。凍えそうに冷えこんできた。
堤防の上に立って見る浜辺はぼんやりと白い闇だった。
海は真っ黒で、ときおりレースのふちどりがちらちら光った。
部屋はあたたかく、わいたお湯の蒸気が満ちてゆく。
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