『この世界の片隅に』上中下巻
双葉社 ¥648(+tax)
最近 映画化やドラマ化されて話題になっていたようですが、
それより前に通っていた歯科医院の本棚にあるのを読んでいて、良作だなあと思っていました。
元々 手元に置いておきたくて古本屋で探していたのですが、
なかなか見付けることができず
先日 歯科医院の先生に頂いた図書券がちょうどあることですし、良い機会だと思ってこれを使って購入させて頂きました。
ちなみに下巻の初版(写真左)は表紙・主人公のホクロを書き忘れていたらしく、まんだらけで1800円のプレミアが付いていました。
角度的にホクロが見えなくても違和感ないんですが、指摘されたんですかねえ。
冬目景さんもホクロフェチで作中にホクロのある人物をよく描くんですが、時々描き忘れたり、アシスタントに汚れと思って消されたりするそうです(笑)
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現代もまた、戦時中といいます。
数々の震災で家や家族を失った方が、実はたくさんいます。
地震・台風・大雨… 近年起きるそれは、ほとんどが人工的に引き起こされたものだといいます。。もう、空襲みたいなモンでしょ。
カタチは違えど、戦時中と本質的には変わらない共通点がヒットした裏側にはあると思うととても切なくなります。『君の名は。』もそうでしたね。
これだけ日本中に被災した人がいるんだから、戦時中の物語にも共感できて当たり前なのです。
さて。
この作品は、絵柄も相まって戦時中を描きつつも非常にほのぼのと進んでいきます。
後半、主人公がなかなかの衝撃的な大怪我を負いますが
物語はそこを軸とはせずに淡々と続いていきます。
今だったら、間違いなく深刻になって引きこもりになりそうな大怪我なのに、
そうはならないのは作者の表現力の賜物なのか、生と死が当たり前に溢れていた時代だったからなのか、生活するのに精一杯でそんな暇も無かったからなのか。。
あの時代の残酷さと、
主人公の天然さに救われるところでもあります。
とにかく、一見すると絵が昭和でほのぼのしているのですが、
実に圧倒的な画力と表現力であの時代の市民のリアルな暮らしは勿論、言葉にならない矛盾や哀しみ、心の葛藤や生活苦も描かれています。
『漫画ならでは』の
あらゆる表現方法を使いながら、見事に読者に訴えるものがあります。
私はまだざっと読んだだけなのですが、それでも泣いてしまいました。
言葉にならない感情が、画面から溢れてくるんですよね。。
これはもう、漫画ならではの、漫画でしか表現できないものだと思います。
やっぱり漫画はいい⤴︎。お金なしに何度でも読み返せるし。
いま出版界は苦境に立たされてますので、ぜひ新刊を買って作者にお金を落として紙とインクの匂いも感じながら読んでもらいたいです。
物語は戦時中を舞台にしていますが、そこは漫画。
時折、ファンタジーな要素も出てきます。
特に、冒頭で怪物?にさらわれた時に一緒にいた人が後に自分を探し当てて結婚を申し出てくるくだりにはやられました。
幼い頃に出会った異性を想い続けてて結ばれるパターンは少女漫画では鉄板の!✨きゅんきゅん✨ポイントです。
あの時代、結婚を申し込まれたら基本的には断れない(?)という時代背景にはちょっと驚きでしたが。それも、生きていく知恵だったのか。働き手が欲しいから結婚する、ってことも多々あったんだろうなあ。。
作品をよくみると、女は家庭に入るとホントにこき使われていて立場も低くって、今の時代からするとクレイジーな点もよく描かれています。
無月経になる女性が多かったというのも頷けます。
ほんわか天然キャラの主人公も、ハゲが出来てたもんな。。
私はまだ瀬戸内地方には行ったことがないのですが、瀬戸内地方ならではの暮らしの様子も実によく描かれています。
恋愛模様も。今とはまた違った純朴で不器用な様相がリアルに描かれていて見ているこちらがドキドキしてしまいます。
今も昔も、ヒトの求めることは変わってないんでしょう。
ファンタジーな様相も時々出てきますが、震災直後にはたくさんの方が『幽霊』を見たと証言していることから、そんなに突飛なこととも思えません。
むしろ、生と死が混ざり合う時には当たり前に存在するものかもしれないとさえ思いました。
今は妖怪も幽霊も神様もだいぶ減ってしまって、それが良いことなのかどうかは分かりかねますが
作品の主人公のほんわかさを見ていると、
どんな時代であっても幸せに暮らすヒントを教えてもらえたような気がします 。
主人公の周りでは、主人公の天然さも手伝ってどんな状況でも笑いがありましたから。